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3、4年前、グリッド・コンピューティングの話が出始めた時には、“短期的なメリット”であるサーバー・コンソリゼーションや、リソースシェアリング等の話は、あまりクローズアップされていませんでした。グリッド技術が遊休資産を減らすためにということより、もっと別なパラダイムに導いてくれると考えている人が多かったように見受けられます。しかし、オラクルはある意味“短期的なメリット”だけを取り上げていたので、「これがグリッドです」と言ったときに、あまり周囲に理解されなかったようです。多くの意識の中でユーティリティ・コンピューティングとグリッドが混同していたと思います。また、オラクルのグリッド化はRACというクラスター技術の拡張に力点を置いてきたので「オラクルが、グリッド・コンピューティングだと称して出した製品は、グリッドではない。」とよく言われていました。しかし、それが現時点でお客様のご要望を満足させる最良の解決策と自負しています。
私はグリッド・コンピューティング関連の講演をここ3年程行っていますが、講演の中で○か、×か、の質問を聞いています。3年間いくつか同じ質問をしています。その1つは、「グリッド・コンピューティングの技術は、ハードウエアの発展に関係あるか。」つまりグリッド・コンピューティングはソフトウエアだけの技術で実現できるかという質問です。この質問に対して特に3年前ほとんどの人が×でした。もう1つは、「グリッド・コンピューティングを実現するためには、今あるアプリケーションを書き直さなければいけないか。」です。これは○でした。これらの質問の答えから判断するとグリッド・コンピューティングがソフトウエアの技術だと思っている人たちが大半だということです。特に、グリッド・コンピューティングを実現するためには、アプリケーションを変える必要がある、と思っている人たちが多いのです。このような間違った認識は正していかないと次のステップに進めないと考えています。
このようにグリッド・コンピューティングはまだまだ本質が理解をされていない部分もありますが、最近は徐々に遊休リソースについての意識も高まり、グリッド・コンピューティングへの期待は大きくなっているのは事実です。
EGAというのは、エンタープライズ・グリッド・アライアンス(Enterprise Grid Alliance)という名前の世界的なNPOで、エンタープライズ環境においてグリッド・コンピューティング技術の導入を加速することを目的とした業界団体です。EGAは、2004年の4月20日にアメリカで発足しましたので、まだ発足して1年半位です。現在は、全世界30社弱の企業やユーザーで構成されています。グリッドを導入するにあたり障壁となっているものを見極め解消していく努力をしています。具体的には、設立要項には5つの作業項目が含まれています。
EGAには運営していく上でいくつかの決まり事があります。その1つとしては、「1社1票」というポリシーです。沢山の人々が参加している会社でも、小さい会社から1人で参加しているとしても同じ1票を持っているのです。とくに1社1票というのは、大勢が参加出来る一つの企業の意見に寄らないようにということで考えられています。またEGAから公開された成果物はロイヤリティー・フリーであることも大前提となっています。EGAはグリッド・コンピューティング技術の導入を加速することを目的とした業界団体ですから、せっかくの成果物を利用する際に制約があっては何にもなりません。
EGAには理事会社と呼ばれる会社が9社います。その下に3つの運営委員会が存在しています。1つは技術的なことを運営する技術運営委員会。2つ目は、マーケティングやプロモーション活動をするマーケティング運営委員会。3つ目は、地域を担当する地域運営委員会です。アメリカ主導の組織ですが、その他の地域にもグリッドを促進するために、地域運営委員会が設立されています。現在は、日本地域運営委員会と欧州運営委員会が立ち上がっています。その中で私は日本地域運営委員会の議長を勤めています。各地域運営委員会は技術運営委員会やマーケティング運営委員会と協調を取りながら、委員会で議論されたことや展開状況、要求事項などをまとめ、定期的に理事会に直接レポートしています。
EGAの中には5つのワーキンググループが存在します。1つ目はリファレンス・モデル・ワーキンググループで、エンタープライズ・グリッド・コンピューティングの用語の定義や参照モデルの検討をおこなっています。2つ目は、データ・プロビジョニング・ワーキンググループです。ここでは、データ・プロビジョニングの要件を特定します。3つ目は、コンポーネント・プロビジョニング・ワーキンググループです。サーバーコンピューター・レベルでのプロビジョニング要件を検討しています。4つ目が、ユーティリティ・アカウンティング・ワーキンググループで、エンタープライズ・グリッド環境におけるユーティリティ・アカウンティングの定義に役立つような要件の検討を加えています。そして、5つ目が、セキュリティ・ワーキンググループとなります。企業でグリッドを導入するために考慮しなければならないセキュリティの要件を特定します。
成果として、現在公開している2つのドキュメントがあります。1つは「参照モデル」のドキュメントです。いわゆるエンタープライズ・グリッド・コンピューティング・インフラストラクチャを構築する際の必要なフレームワークを提供します。主なものとして、グリッド関連の用語集、グリッドに必要なコンポーネントの管理とそのライフサイクルを分類する参照モデル、ユースケースを集めたものです。つまり雛形みたいなものです。
もう1つのドキュメントは、セキュリティ・ワーキンググループが公表した、「エンタープライズ・グリッド・ セキュリティ要件」があります。エンタープライズ・グリッド・コンピューティングのインフラストラクチャを実現するために必要となるセキュリティ上の要件事項をまとめています。グリッド・コンピューティングでは、様々な資産を統合して使用するため、セキュリティの強化は非常に重要です。その意味でセキュリティ・ワーキンググループの活動はとても大きいでしょう。
グリッド・コンピューティングに関係しては他にもいくつか団体があります。例えば、GGF、W3C、OASIS、SNIA、DMTFなどです。EGAと他の団体と根本的に違うところは、他の団体はグリッドに関連した標準を作ることに主眼を置いていますが、EGAではそれらの団体と緊密な協調関係を保ちながらそれら標準仕様やユーザー要件を組み合わせ、エンタープライズ環境においてグリッド・コンピューティング技術の導入を加速するためにはどうしたら良いかの検討をおこないます。EGAは要件の宝庫です。逆に他の標準化団体に対して要件を提示する場合もあります。そのような観点では、グリッドの標準全体を纏め上げているGGFとは特に緊密な協調関係を築く必要があると思いまして、様々な立場で関係を強化しています。
これからさらにグリッド・コンピューティングは採用されていくと思いますが、その中でセキュリティやサービスレベルの検討がことさらに重要になってきます。エンタープライズ環境の構築は、トライ・アンド・エラーで進めていくわけにはいきません。新しいことではありませんが、これからもきちっと隙のないものを提供しなければなりませんね。
● 本日は興味深いお話をありがとうございました。
(聞き手:成宮 紗弥子)
日本オラクル株式会社
システム事業推進本部 スタンダードストラレジー&アーキテクチャー
担当ディレクター 鈴木 俊宏 氏
1961年生まれ。1990年国立長岡技術科学大学大学院(情報・制御工学専攻)博士課程単位取得満了。1985年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。オペレーティングシステム、TaligentやOpenDoc等の分散オブジェクト技術、エージェント技術等の開発、企画、標準化活動、および技術的なコンサルテーションに従事。1998年日本オラクル株式会社入社。現在、技術標準化戦略全般の日本の責任者として各種協議会、標準化団体に参加。EGA(Enterprise Grid Alliance)日本運営委員会議長。自律システムにおける受け手にとっての情報の理論化に興味をもつ。
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